[小 説/RO小説/moe6]

P006 終わりたい世界 / 2005-04-07 (木)

「お、重かった~……」
 古城の入り口に着き、武器や道具の入った袋を下ろしながら呟く僕。
「メルがそんなに武器を持ってくるからですよ」
 と、すぐに返してくるユキ姉。
「だって、相手によって有利不利な武器ってあるから、相手に合わせて使い分けたいじゃない」
「今回の調査に必要そうな物だけ選んで、後は宿に置いて来ればもう少し楽でしょうに」
 とナゲットに乗ったユキ姉が言う。
「何が出るか分からないって所に行くんだから、何がいるか分からないじゃないか~。第一、本来ならそのナゲットに荷物積んで移動する筈だったのに、なんでユキ姉が乗ってるのさ」と、ぶす~とした顔で答える。
「あら、私が疲れていざって時に回復魔法や支援魔法使えなかったら大変でしょ?」
「それはそうだけどさ~」
「メルも遠慮せずにLODに乗ってくれば良かったのですよ」
 とパトラッシュの背から降りながら言う師匠。
「猿に乗るなんて嫌だし、第一どうやって僕より小さい猿に乗れって言うんですか!」
「それなら、餌袋の中にある青い餌をLODに上げてみなさい」
 と、全然関係ないような答えを返してくる師匠。
「それって、猿に乗るのと何か関係があるんですか?」
「食べさせてみたら分かるよ」
 なんなのだろうと思いながら、餌袋から青い餌を取りだし猿に与えてみる。すると……。
「し、師匠。こ、これって!?」
「はっはっは、驚いただろ」
 餌を食べた猿は、どんどん大きくなっていく。
 そして、僕と同じ身長になった辺りで、僕の持っていた餌袋を奪い取る。そして袋の中から青い餌を三つ取りだし一つを自分で食べ、二つはパトラッシュに投げ与える。パトラッシュは投げられた餌をうまく口でキャッチし、ゴクリと飲み込んだ。
 二匹は、ぐんぐんと巨大化しながら、その姿を異様な物へと変化させていった。
「師匠、これはどういう事なんですか!?」
 と言いながら師匠の方を見ると、走って逃げ去る師匠の姿があった。
「え……えええええええええーーーーーーーーー!!」
 と驚きの声を上げながら、ユキ姉の方を見ると、すでに見える位置には姿はなかった。
 その間にも、二匹の変化は続いていた。二匹の表皮は鎧の様な形に変貌を遂げ、パトラッシュは巨大な馬のようになり、LODは巨大な甲冑を着た騎士のような姿に変わり始めていた。
「と、とりあえず逃げよう」
 と誰にでも言うなく言った後、武器の入った袋を取り上げ走り出す。
がその時、変貌中のLODが雄叫びを上げながら広げた太い腕が武器袋を襲った。武器袋には穴が空き中の武器がこぼれ落ちる。その衝撃でバランスを崩して転びそうになるが、何とか転ばず体勢を立て直し走り出す。幾つか武器が落ちたようだが、それには構わず、ただひたすら前を向いて走った。


 数分後僕は古城の門をくぐって近くの茂みの中に隠れ、走って乱れた息を整えようとしていた。
「こんにちは」 と不意に僕の後ろから声が聞こえた。
 その声に驚き、よろけて茂みの外の地面に尻餅をつく。その拍子に、破れかけの武器袋を枝に引っかけ、完全に破けた袋から中に残っていた武器が音を立てて散らばった。
 そして僕の後を追うように、声の主らしき女の子が茂みの中から姿を表す。
 背は僕より頭一つ小さく、髪は栗色で肩の辺りで切りそろえられた髪は、端の方が跳ねていた。
「あら、驚かせてしまいましたね」と枝に引っかかりずり落ち掛けたミニグラスを掛け直しながら笑顔で言う女の子。
 何も答えずにいると、立てますか?と言いながら手を差し伸べてくる。
「あ、はい、大丈夫です。一人で立てます」と、体についたゴミを払いながら立ち上がる。
「何か大変な目にでも遭ったようですね」と散らばった武器の方に目を向けながら聞いてくる。
「あ、え、いや……猿が花子で、猫がパトラッシュで皿回しを……」
 と自分でも何を言いたいのかさっぱり分からない事を言う。
「そうですか、それは大変でしたね」変な言動を特に気にする様子もなく、笑顔のまま直ぐにそう答える女の子。
「いや、えっと……」この子は一体今ので何を理解したのだろうか。
「今のあなたにはこれが必要ですね」
 そう言って自分がつけていた剣の形をした首飾りをはずし、僕の首に付けようとする。
「え、必要って」
 といって慌てて後ろに下がろうとした。
「お姉さんの言うことは聞かないとダメですよ?」笑顔のまま僕の目をじっと見据えた。
「え、おねぇ…」
 ちょっとキョトンとした隙に、女の子はすっと僕の首に手を回し首飾りを着ける。
「必要な時にはこの首飾りが光るから、その時は、この首飾りの革の鞘から剣を抜いて下さい」と女の子は耳元で囁いた。
 女の子の髪からふっと薫る甘い香りに、一瞬今起きてるすべての事を忘れてしまう。その間に女の子は体を離し。
「きっと貴方ならやれますよ」
 何がやれるのだろうと思いながらも口から出たのは
「あ、あのあなたは……」という言葉だった。
「ん~、この世界で言うと錬金術師みたいなものかな」と笑顔で答える。
「それでは、イクスさんによろしくね」とウインクをしたあと、ふっと姿が消える。
「師匠によろしくって……まさか、あのピコピコハンマーの……」
 あの武器の事を思い出し貰った首飾りに不安を覚えた。がそれ以上何かを考える前に「メルどいて~」と言う声で考えを中断させられる。
「どいてどいてー」という声に振り向いた僕の目に映った物は、ナゲットのくちばしだった。ぶつかる瞬間に何とかナゲットの首にしがみつき跳ね飛ばされるのを避ける。
「危ないじゃないか~」
 と怒鳴ると「ちっ」という舌を鳴らす音が聞こえた後。
「さっきの怪物見てから暴走して止まらないのよ」
「止まらないって」と言った辺りで急にナゲットが止まり、そのため捕まっていた首から腕が離れ、地面に叩きつけられた。
「何で急に止まるんだよ!」という僕の言葉に。
「め、メル後ろに…」とユキ姉のぶら下げていたソードメイスに服が引っかかり、そのまま引きずり回されていたと思われる師匠がそれだけ言うと、がくりと崩れ落ちた。
 ユキ姉のやつ、師匠まで殺る気かもしれないという不安を抱きながら、師匠に言われた後ろを見る。
 そこには、座って話し込むパトラッシュとLODだったものらしき巨大な怪物が居た。
「やっとの登場シーンだったのにさ、変身が終わって名乗ろうとしたら、誰もいないってあんまりだよね」と地面にのの字を書きながらいうLODらしき物。
「名乗るまで待つのが変身ヒーロー物のお約束なのにね」とその口でどうやって喋ってるんだと言いたくなる馬っぽいパトラッシュらしき物が言う。
「全く最近の冒険者と来たら最悪だよね」
「そうだよね~、もうこのバイト辞めようかな~」
「ちょっとまて、お前らバイトかよ!」
 と思わずバイトという言葉につっこんでしまう。
 その声でやっと僕たちが居ることに気付いた二匹。
「き、貴様は!?や、やっと現れたな愚かな人間どもめ!」
 と慌てて地面に置いていた武器を手に取り、パトラッシュに跨るLOD。
「我が領地に踏み込みし馬鹿な人間どもめ。我が真の姿を目の前にして、怖じ気付いたようだな」と言い高らかに笑った後話しを続ける。
「その手に持ってる武器、僕が持ってきたハリセンだし」
「いや、出かける時に武器持ってくるの忘れて、落ちてたやつを……」 と言いかけて咳払いをする。そして何事もなかったように。
「我は、死を司る王ロードオブデス。自らの力を知らず我らの神に刃向かう愚かな人間共に死をもたらす者。さーお前達に想像を絶する恐怖と絶望を与えてやろう」
 そういって、僕たちを見回す。
「でも、所詮バイトなんでしょ?」と突っ込む。
「はっはっは、貴様らなど我が手をくだすまでもない」と僕の言葉を無視し、手に持ったハリセンを横に振り上げながら召還呪文を唱える。
「いでよ今週のビックリドッキリメカ!」と叫び、ぽちっとなとパトラッシュの頭のボタンらしき物を押す。するとパトラッシュの口が大きく開き口からハシゴが地面に向かって降りていく。ハシゴが降りきるとパトラッシュの口の奥から「深淵♪深淵♪」と繰り返しながら八分の一LODって感じの黒い馬に乗った黒騎士の大群が降りてくる。
 が途中で顎が疲れたのか、口を閉じるパトラッシュ。プチプチ、バキッという音と共にハシゴが落ちる。唖然とする一同。長い沈黙が流れた後、我慢しきれずにゴクンと咽を鳴らし何かを飲み込むパトラッシュ。
「行け深淵の騎士よ!」
 何事も無かったように命令を出すLOD。
 しかし、深淵の騎士と呼ばれた怪物達は、そのほとんどが、ハシゴと共に落下したため、地面でじたばたと喘いでいた。
「なんかすっごい弱そうなんだけど」
「言うな……」と、情けなさそうな声で言うLOD。
 そのうちに、体勢を立て直した深淵の騎士達が、僕に向かって突撃してくる。
 その時になって初めて、自分が武器を持っていないことに気付いた。
 その状況を見たユキ姉が「メル、これを」と武器を投げよこした。
 それを右腕で掴んだ僕は、向かい来る深淵の騎士達に向かって突撃した。
 八分の一とはいえ、僕の腰ぐらいまである騎士の頭に向かって両手で握った武器を横に振り抜く。
 ボコッという音と共に冷たい汁をとばしながら折れ飛ぶ武器。何が起こったか分からず立ち止まる僕。
「う~ん、やっぱり練馬大根じゃんダメだったみたいね。次は桜島にしようかしら」と戦闘とは全然関係ないような事を言うユキ姉の声が聞こえた。
「大根はどうでもいから、武器頂戴よ武器!」
「ないわ」と即答するユキ姉。
「その腰のソードメイス貸してよ!」
「これ高かったんだから嫌です」とさらっと答える。
 その時、脇腹に激しい痛みを感じ倒れ込んだ。油断してる隙に騎士の剣が僕の脇腹を裂いていた。とどめを刺そうとする次の一撃を転がりながら避けた後、何とか立ち上がり、近くの茂みに転がり込む。傷口からは、どんどん血が流れ出ていた。
「こ、このままでは」と嘆いた瞬間。胸の辺りで何かが光っているのに気付いた。
 それは、あの変な錬金術師と名乗った女の子に貰った首飾りだった。
「嫌な予感がするけど、このままじゃどのみち……」
 そう言って、首飾りの鞘から剣を抜く。
 その瞬間頭に、言葉が浮かび、その言葉を口にした。
「愛と勇気とネタの名の下にウェポンマスター、チェンジアップ!」
 その言葉が終わると、僕の体は光に包まれ、着ていた物が脱がされていく。
 ……脱がされて行く!? あまりのまぶしさに目をつぶっていたが、目を薄く開けて周りを見ると、頭から全身に黒い服を身につけた人達に囲まれて服を脱がされていた。
「きゃーーーー、な、何なんですか貴方達は!」
 自分でも信じられないような悲鳴をあげ、その黒装束の人達の手から逃げようとする。
「黒子ですぅ」黒装束の一人が、女性の声で答える。
「黒子って、なんで僕を脱がしてるんだよ」
 そう言いながら必死に逃げようとする。
「変身するからですぅ」と再び同じ黒子が答える。
「変身って!?」
「暴れて面倒だから、やってくれ」と一番小さな黒子が言うと、「OK」と言う言葉と同時にピコッという音と共に後ろ頭に衝撃が走った。
「こら、かりん。一般人をチタンのピコハンで殴るな!」
「薬よりこっちの方が早くて良いじゃない」
「死んだらどうするんだよ」
「大丈夫手加減し……」
 どうやら、何かで殴られたらしい事を感じながら意識を失った。