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萌えないゴミの日5 『剣凍える夜に』 著:月見猫/イラスト:おおきしとおる
彼らは何を求めてギルドに集い、そして去っていくのか。
Gvギルドに集まった人々の出会いと別れのストーリー。
萌えないゴミの日05『剣凍える夜に』 / 2005-04-18 (月)
剣凍える夜に 著:月見猫 / 2005-04-18 (月)
小説サイト公開 / 2005-04-08 (金)
小説サイト公開しました。
- DayBreaker 南瓜
- EuTMixDayBreakers 久美くみ
- 終わりたい世界 久美くみ
pdf及びテキストが良い人がいれば、また用意します。
月見猫の小説も編集でき次第UP予定です。
P008 終わりたい世界 / 2005-04-07 (木)
師匠の事を思いだしたのは、それから二日後の事だった。
あの後、街の近くまで走ったのだが、あの派手な鎧のまま街に入るわけにもいかず。人の通らない場所で、変身解除をしようと試みるも何も起こらず。自分で外そうにも着替えの服がなく脱ぐに脱げずに過ごした。
次に日になってやっと黒子と名乗った人達が現れ。
「ちょっと忙しかったのですぅ~」と僕の変身を解いて行った。
忙しいと変身したりできないってどうなんだろう……。
その後街に入り宿屋へ戻ってゆっくり休んだ。
そして翌日、宿の一階に朝食を食べに降りると。
「あら、メル無事だったのね、突然いなくなって心配してたのよ」
と何事も無かったように話しかけてくるユキ姉。
「ん、あ、え~と……」
あまりに、何事も無かった感じのそぶりに、今までの事が夢だったのではと思えて言葉に詰まる。ふと、ユキ姉の反対側の席に目をやると、そこに座る女性と目が合った。
「またお会いしましたね、メルさん」と栗色の跳ねっ毛少女が言う。
「あ、あなたはーーー!」とつい大声を上げてしまう。
「一体、なんなんですか、これは~~」
と貰った首飾りを手に持ちながら詰め寄る。
「メルは朝から元気ですね」と不意に後ろから声をかけられる。
振り向くとそこには、あちこちに包帯を巻いた師匠が立っていた。
「し、師匠どうしたんですかその包帯は!?」
そう言いながら、あの時師匠が居たことを思い出し冷や汗を流す。
「何でだろうな、美少女戦士君」
と、下がったミニグラスを左中指で押し上げながら言う。
「な、な、な、なんの事ですかーーーー」
慌てて後ずさったために、ユキ姉の椅子の脚に引っかかり転んで尻餅をついてしまう。
「どうしたのウェポンマスター?」と椅子の上から覗き込むように言うユキ姉。
「うっ………も、もしかしてみんな知ってるの?」
床に座ったまま、上目遣いで聞く。
「さー何の事です?」と言った後に、唇の端が上がりそれを隠すように握った手で口を押さえながら反対を向く。
「うわー、絶対知ってる、全部知ってるんだーーーー」
その言葉と同時に、ユキ姉と師匠が大声で笑い出す。
「ユキ姉も師匠もその女の子も全部グルだったんだねーーー」
「いや、悪い悪い試験だったものでな」
そういう師匠の目には、笑いすぎて涙が浮かんでいた。
「………試験?あれが一体なんの試験なんですかーー」
「騎士団への入団試験だよ」
「へ……」と間抜けな声を出してしまう。
「おめでとうメル。入団が許可されたそうよ」
一体何がどうなっているのだろうか。
訳の分からないまま座り込んでいる僕の側に、ユキ姉の反対側に座っていた女の子がやってくる。
「おめでとうございます、メルさん」
そう言って蝋で封印された封筒を差し出してきた。
「詳しい事はその中に入っている用紙に書いてあります。一週間後に組織の者がお迎えにあがりますので、それまでに良く読んでおいて下さい」
「あ、はい」とだけ答え封筒を受け取る。
「それでは私はこれで失礼させて頂きます」
そう言って立ち去ろうとする女の子に向かって。
「あなたは、一体……?」
「私は、ユカリ……ユカリ=サクライ。この世界において、あらゆる物のテストを行う者です。それでは、またお会いしましょう」
そう言ってにっこりと笑って、ユカリと名乗った女の子は宿を出て行った。
P007 終わりたい世界 / 2005-04-07 (木)
背中に痛みを感じ目を覚ますと、僕は古城の城壁の上に座らされていた。
「それでは、頑張ってくださいですぅ」と黒子と名乗った一人が言い去っていく。
何が起こったのか思い出しながら立ち上がる。体には赤青白の三色を基調とした鎧がつけられていた。右腕には白と青のガントレット。手にはつや消しのガンメタリックのT字状の武器を握っていた。左腕のガントレットには赤黒の縦長の盾が付き、背中に目をやると黒と赤の翼のような物がついていた。脚甲は足下に行くに従って広がっており脚を覆う部分は妙に大きかった。
「な、なんなんだろこの派手な鎧……」
ふと、城壁の下に目をやると、先ほどの怪物達に囲まれている、ユキ姉の姿があった。それを見て自分たちが置かれていた状況を思い出す。
「そこまでよ、世界にあだなす悪党達!その女性を解放しなさい!」と高らかに叫ぶ。
その声に気付いたのか、怪物達がこちらに目を向ける。
「ボス、何かMS少女っぽい奴が城壁にいますよ!」と叫びながらボスと呼ばれた人の方を向く。
「馬鹿、ボスなんて呼ばないでよ」と答えるネコミミを着けた女性。
「……ってボスってユキ姉かよ!」と思わず突っ込んでしまう。
「私の事をユキ姉って呼ぶなんて、あなた一体何者です!」と問い返す。
本気で分からないのだろうか……。問われて名乗るのが恥ずかしいので、答える気は無かったのだが、何故か口が動いてしまう。
「悪ある所に正義あり。疾風の様に現れ疾風の様に去っていく、通りすがりの美少女ネタ戦士ウェポンマスターメル。月に変わってご奉仕するにゃん♪」
と言った後、「とうっ」と城壁から飛ぶ。
「……って何飛んでるのよ私ーーーーー。し、死ぬーーーー」
数秒後、ドコッという音と共に地面に埋まり込む。
「……イタヒ……デモイキテル」
体中に痛みを感じはするが、生きてることを実感する。何とか体を動かし埋まった穴から這い出ると、呆れた目で見る悪役御一同の姿が目に入った。
「か、帰りたい」そうつぶやきながら、一体どうしてこんな事になったのか考える。そこでふとあることに気付いた。ユキ姉が敵のボスなら、助ける必要はないのではと。
そうと決まれば。
脚を肩幅に広げ、両手を下にしてピシっと背を伸ばし立つ。
「私はウェポンマスターメル」
「それはさっき聞いた」
「疾風のように現れ、疾風のように去っていく」
「それも聞いた」
そして私は右腕を上げ一差し指で敵を指し示し。
「悪魔の諸君!」
「なんだ?」
「さらばだ!」
そう言って街の方に向かって全速力で駆け出す。かなり離れた頃後ろの方から「……ちょ、ちょっとまてーーーー」と言う声を聞いたよな気がした。
P009 終わりたい世界 / 2005-04-07 (木)
一週間後、白いローブを着た組織の使いと名乗る人がうちを訪ねて来た。僕が入団を許された組織は、師匠の所属する騎士団とは別の組織らしく、組織に所属する者だけが使える特定の移動用の魔法を使わないと行けない場所にあるとの事だった。迎えに着た人は必要な質問以外には一切答えず、僕を移動魔法で転送した。
着いた場所は巨大な石造りのホールのような場所だった。
その後「こちらへ」とホールから脇の通路に入り、その突き当たりにある部屋へ案内された。その部屋に入ると。
「いらっしゃいませ~。本日はこちらでお召し上がりですか?」
と白い服に金の縁取りがしてある服を着た女性に声をかけられた。
「あ、いえお持ち帰りで」と思わず答えてしまう。
「かしこまりました、それではこちらが、バルムンと制服そしてホイッスルです。これから頑張ってお仕事してくださいね」
と、この世界でも本当に限られた人しか装備出来ないと言われる、バルムンと呼ばれる魔を立つ魔法剣。女性が着ている物と同じ制服とホイッスルと呼ばれた笛を受け取った。
凄い装備を凄く軽いノリで渡された気がする。この組織は本当に大丈夫なのだろうか……。しばらく渡された装備を見ていたが、この一週間考えていたことを思い出し聞いてみることにする。
「ちょっと良いでしょうか?」
「あたしの幸せのためにお祈りでもするのですか?」
「僕はそんな怪しい宗教団体の者じゃありません……」
「それでは何でしょう?」
「僕は、テストの時に思いっきり逃げてしまったのですが、なんでこの組織に入団を許可されたのでしょうか?」
「それは、何もかも無視して逃げる、その逃げ足の速さです」
その答えに思わず「へ?」と情けない声が口から漏れる。
「それでは研修頑張って下さい。期待してますよ、メルリーウィ」
「いや、逃げ足で採用されるってどういう組織なんですかーー!」
と叫んだが、案内役の人は、何事も無いように次はこちらですと僕の腕を引っ張り部屋からでた。
その後、研修に入り組織の活動内容や装備の詳しい扱いを習った。ホイッスルと呼ばれた笛は、どうやら前の首飾りと同じような機能があるらしく、吹くと制服を装着するようになっていた。最初の首飾りとは違い、黒子と名乗る人達が出てきてと言うことは無かった。あの黒子って一体なんだったのだろうか。
最後に、この建物への移動と敵捕獲のための転送魔法の使い方を習い、それを修得した時点で研修は終わった。
僕は再び最初に通された部屋に行き中に入った。
「いらっしゃいませ~。何名さまでしょうか?」と前と同じ女性が聞いてきた。
一体この部屋って何なんだろうと思いながら「あ、一名です」と答える。
「喫煙席と禁煙席がございますがどちらに致しましょう?」
「禁煙の方でお願いします」
「かしこまりました、それでは、ご注文の方を繰り返させて頂きます。私達の組織の事は秘密となっています。貴方の本当の仕事やここの組織の事は口外しないようにして下さい。貴方には、明日から表向きには、プロンテラ騎士団員として働いて貰います。必要な時には、変身し本来の業務にあったってください」
最初のやりとりは一体なんの意味があったのかよく分からないが、後半は研修中にも何度も言われた、秘密厳守という話しだった。
「以上でよろしいでしょうか?」
「はい」
「それでは、お仕事頑張って下さい」
その後、自分の家に戻った俺は、表向きプロンテラ騎士団に所属しながら組織の仕事を始めた。
俺の仕事は、この世界での違法な兵器の開発や使用の取り締まりであったが、その仕事をしていると違反者とは関係ない人達とも出会う事がある。決まってその人達は俺をみるなり。
「本当に居るんだ~」とか「あれはどうなってるんですか!」などよく分からない質問攻めにあったり囲んだりしてくる。一般の人達であるため、取り締まるわけにも行かず、俺は只逃げるだけだった。
戦闘能力よりも逃げる能力を重視する理由はこれだったらしい。
組織に所属する他の人達も色々な意味で逃げが上手い人ばかりであり、とてつもなくダメな組織であった。組織のことは秘密と言われたが、恥ずかしくて誰にも言えないことだった。だから変身時に自分の正体がばれないように通りすがりの美少女ネタ戦士ウェポンマスターメルと名乗るようになり、自分の呼び方も、俺と私を使い分けるようになった。
これで、俺がウェポンマスターメルとなった時の話しは終わりである。
永遠に続く争い(ラグ)の世界
俺は何時までこの世界を守り続けるのだろうか
でも俺が守りたいのはこの世界じゃない
守りたいのはこの世界の人々なんだ
俺たちが本当に戦わないといけないのは
目に見える魔物ではなく 俺が所属する組織なのだから
「ていうか、こんな訳の分からない世界はもう嫌だーーー辞めてやるーーーーーーー!!」
「自殺だと保険おりないから事故死でお願いね」
「うわ、ゆ、ユキ姉何でここに!」
「というか早く死んでくれないと、掛け金が馬鹿にならないのよね。あれからいくら保険料払ってると思うのよ」と俺の問いを無視して小さな声で言う。
「ユキ姉丸聞こえだよー」
「まったく、一番恨みを買いやすくて殺されそうな仕事に就かせてあげたのに、なかなか死なないのよね」と俺の声が聞こえていないのか、小さな声で喋り続けるユキ姉。
すべてユキ姉の仕組んだ事だったのか……ほんとにもうヤダこんな世界。
「終わりたい世界 -完-」
P006 終わりたい世界 / 2005-04-07 (木)
「お、重かった~……」
古城の入り口に着き、武器や道具の入った袋を下ろしながら呟く僕。
「メルがそんなに武器を持ってくるからですよ」
と、すぐに返してくるユキ姉。
「だって、相手によって有利不利な武器ってあるから、相手に合わせて使い分けたいじゃない」
「今回の調査に必要そうな物だけ選んで、後は宿に置いて来ればもう少し楽でしょうに」
とナゲットに乗ったユキ姉が言う。
「何が出るか分からないって所に行くんだから、何がいるか分からないじゃないか~。第一、本来ならそのナゲットに荷物積んで移動する筈だったのに、なんでユキ姉が乗ってるのさ」と、ぶす~とした顔で答える。
「あら、私が疲れていざって時に回復魔法や支援魔法使えなかったら大変でしょ?」
「それはそうだけどさ~」
「メルも遠慮せずにLODに乗ってくれば良かったのですよ」
とパトラッシュの背から降りながら言う師匠。
「猿に乗るなんて嫌だし、第一どうやって僕より小さい猿に乗れって言うんですか!」
「それなら、餌袋の中にある青い餌をLODに上げてみなさい」
と、全然関係ないような答えを返してくる師匠。
「それって、猿に乗るのと何か関係があるんですか?」
「食べさせてみたら分かるよ」
なんなのだろうと思いながら、餌袋から青い餌を取りだし猿に与えてみる。すると……。
「し、師匠。こ、これって!?」
「はっはっは、驚いただろ」
餌を食べた猿は、どんどん大きくなっていく。
そして、僕と同じ身長になった辺りで、僕の持っていた餌袋を奪い取る。そして袋の中から青い餌を三つ取りだし一つを自分で食べ、二つはパトラッシュに投げ与える。パトラッシュは投げられた餌をうまく口でキャッチし、ゴクリと飲み込んだ。
二匹は、ぐんぐんと巨大化しながら、その姿を異様な物へと変化させていった。
「師匠、これはどういう事なんですか!?」
と言いながら師匠の方を見ると、走って逃げ去る師匠の姿があった。
「え……えええええええええーーーーーーーーー!!」
と驚きの声を上げながら、ユキ姉の方を見ると、すでに見える位置には姿はなかった。
その間にも、二匹の変化は続いていた。二匹の表皮は鎧の様な形に変貌を遂げ、パトラッシュは巨大な馬のようになり、LODは巨大な甲冑を着た騎士のような姿に変わり始めていた。
「と、とりあえず逃げよう」
と誰にでも言うなく言った後、武器の入った袋を取り上げ走り出す。
がその時、変貌中のLODが雄叫びを上げながら広げた太い腕が武器袋を襲った。武器袋には穴が空き中の武器がこぼれ落ちる。その衝撃でバランスを崩して転びそうになるが、何とか転ばず体勢を立て直し走り出す。幾つか武器が落ちたようだが、それには構わず、ただひたすら前を向いて走った。
数分後僕は古城の門をくぐって近くの茂みの中に隠れ、走って乱れた息を整えようとしていた。
「こんにちは」 と不意に僕の後ろから声が聞こえた。
その声に驚き、よろけて茂みの外の地面に尻餅をつく。その拍子に、破れかけの武器袋を枝に引っかけ、完全に破けた袋から中に残っていた武器が音を立てて散らばった。
そして僕の後を追うように、声の主らしき女の子が茂みの中から姿を表す。
背は僕より頭一つ小さく、髪は栗色で肩の辺りで切りそろえられた髪は、端の方が跳ねていた。
「あら、驚かせてしまいましたね」と枝に引っかかりずり落ち掛けたミニグラスを掛け直しながら笑顔で言う女の子。
何も答えずにいると、立てますか?と言いながら手を差し伸べてくる。
「あ、はい、大丈夫です。一人で立てます」と、体についたゴミを払いながら立ち上がる。
「何か大変な目にでも遭ったようですね」と散らばった武器の方に目を向けながら聞いてくる。
「あ、え、いや……猿が花子で、猫がパトラッシュで皿回しを……」
と自分でも何を言いたいのかさっぱり分からない事を言う。
「そうですか、それは大変でしたね」変な言動を特に気にする様子もなく、笑顔のまま直ぐにそう答える女の子。
「いや、えっと……」この子は一体今ので何を理解したのだろうか。
「今のあなたにはこれが必要ですね」
そう言って自分がつけていた剣の形をした首飾りをはずし、僕の首に付けようとする。
「え、必要って」
といって慌てて後ろに下がろうとした。
「お姉さんの言うことは聞かないとダメですよ?」笑顔のまま僕の目をじっと見据えた。
「え、おねぇ…」
ちょっとキョトンとした隙に、女の子はすっと僕の首に手を回し首飾りを着ける。
「必要な時にはこの首飾りが光るから、その時は、この首飾りの革の鞘から剣を抜いて下さい」と女の子は耳元で囁いた。
女の子の髪からふっと薫る甘い香りに、一瞬今起きてるすべての事を忘れてしまう。その間に女の子は体を離し。
「きっと貴方ならやれますよ」
何がやれるのだろうと思いながらも口から出たのは
「あ、あのあなたは……」という言葉だった。
「ん~、この世界で言うと錬金術師みたいなものかな」と笑顔で答える。
「それでは、イクスさんによろしくね」とウインクをしたあと、ふっと姿が消える。
「師匠によろしくって……まさか、あのピコピコハンマーの……」
あの武器の事を思い出し貰った首飾りに不安を覚えた。がそれ以上何かを考える前に「メルどいて~」と言う声で考えを中断させられる。
「どいてどいてー」という声に振り向いた僕の目に映った物は、ナゲットのくちばしだった。ぶつかる瞬間に何とかナゲットの首にしがみつき跳ね飛ばされるのを避ける。
「危ないじゃないか~」
と怒鳴ると「ちっ」という舌を鳴らす音が聞こえた後。
「さっきの怪物見てから暴走して止まらないのよ」
「止まらないって」と言った辺りで急にナゲットが止まり、そのため捕まっていた首から腕が離れ、地面に叩きつけられた。
「何で急に止まるんだよ!」という僕の言葉に。
「め、メル後ろに…」とユキ姉のぶら下げていたソードメイスに服が引っかかり、そのまま引きずり回されていたと思われる師匠がそれだけ言うと、がくりと崩れ落ちた。
ユキ姉のやつ、師匠まで殺る気かもしれないという不安を抱きながら、師匠に言われた後ろを見る。
そこには、座って話し込むパトラッシュとLODだったものらしき巨大な怪物が居た。
「やっとの登場シーンだったのにさ、変身が終わって名乗ろうとしたら、誰もいないってあんまりだよね」と地面にのの字を書きながらいうLODらしき物。
「名乗るまで待つのが変身ヒーロー物のお約束なのにね」とその口でどうやって喋ってるんだと言いたくなる馬っぽいパトラッシュらしき物が言う。
「全く最近の冒険者と来たら最悪だよね」
「そうだよね~、もうこのバイト辞めようかな~」
「ちょっとまて、お前らバイトかよ!」
と思わずバイトという言葉につっこんでしまう。
その声でやっと僕たちが居ることに気付いた二匹。
「き、貴様は!?や、やっと現れたな愚かな人間どもめ!」
と慌てて地面に置いていた武器を手に取り、パトラッシュに跨るLOD。
「我が領地に踏み込みし馬鹿な人間どもめ。我が真の姿を目の前にして、怖じ気付いたようだな」と言い高らかに笑った後話しを続ける。
「その手に持ってる武器、僕が持ってきたハリセンだし」
「いや、出かける時に武器持ってくるの忘れて、落ちてたやつを……」 と言いかけて咳払いをする。そして何事もなかったように。
「我は、死を司る王ロードオブデス。自らの力を知らず我らの神に刃向かう愚かな人間共に死をもたらす者。さーお前達に想像を絶する恐怖と絶望を与えてやろう」
そういって、僕たちを見回す。
「でも、所詮バイトなんでしょ?」と突っ込む。
「はっはっは、貴様らなど我が手をくだすまでもない」と僕の言葉を無視し、手に持ったハリセンを横に振り上げながら召還呪文を唱える。
「いでよ今週のビックリドッキリメカ!」と叫び、ぽちっとなとパトラッシュの頭のボタンらしき物を押す。するとパトラッシュの口が大きく開き口からハシゴが地面に向かって降りていく。ハシゴが降りきるとパトラッシュの口の奥から「深淵♪深淵♪」と繰り返しながら八分の一LODって感じの黒い馬に乗った黒騎士の大群が降りてくる。
が途中で顎が疲れたのか、口を閉じるパトラッシュ。プチプチ、バキッという音と共にハシゴが落ちる。唖然とする一同。長い沈黙が流れた後、我慢しきれずにゴクンと咽を鳴らし何かを飲み込むパトラッシュ。
「行け深淵の騎士よ!」
何事も無かったように命令を出すLOD。
しかし、深淵の騎士と呼ばれた怪物達は、そのほとんどが、ハシゴと共に落下したため、地面でじたばたと喘いでいた。
「なんかすっごい弱そうなんだけど」
「言うな……」と、情けなさそうな声で言うLOD。
そのうちに、体勢を立て直した深淵の騎士達が、僕に向かって突撃してくる。
その時になって初めて、自分が武器を持っていないことに気付いた。
その状況を見たユキ姉が「メル、これを」と武器を投げよこした。
それを右腕で掴んだ僕は、向かい来る深淵の騎士達に向かって突撃した。
八分の一とはいえ、僕の腰ぐらいまである騎士の頭に向かって両手で握った武器を横に振り抜く。
ボコッという音と共に冷たい汁をとばしながら折れ飛ぶ武器。何が起こったか分からず立ち止まる僕。
「う~ん、やっぱり練馬大根じゃんダメだったみたいね。次は桜島にしようかしら」と戦闘とは全然関係ないような事を言うユキ姉の声が聞こえた。
「大根はどうでもいから、武器頂戴よ武器!」
「ないわ」と即答するユキ姉。
「その腰のソードメイス貸してよ!」
「これ高かったんだから嫌です」とさらっと答える。
その時、脇腹に激しい痛みを感じ倒れ込んだ。油断してる隙に騎士の剣が僕の脇腹を裂いていた。とどめを刺そうとする次の一撃を転がりながら避けた後、何とか立ち上がり、近くの茂みに転がり込む。傷口からは、どんどん血が流れ出ていた。
「こ、このままでは」と嘆いた瞬間。胸の辺りで何かが光っているのに気付いた。
それは、あの変な錬金術師と名乗った女の子に貰った首飾りだった。
「嫌な予感がするけど、このままじゃどのみち……」
そう言って、首飾りの鞘から剣を抜く。
その瞬間頭に、言葉が浮かび、その言葉を口にした。
「愛と勇気とネタの名の下にウェポンマスター、チェンジアップ!」
その言葉が終わると、僕の体は光に包まれ、着ていた物が脱がされていく。
……脱がされて行く!? あまりのまぶしさに目をつぶっていたが、目を薄く開けて周りを見ると、頭から全身に黒い服を身につけた人達に囲まれて服を脱がされていた。
「きゃーーーー、な、何なんですか貴方達は!」
自分でも信じられないような悲鳴をあげ、その黒装束の人達の手から逃げようとする。
「黒子ですぅ」黒装束の一人が、女性の声で答える。
「黒子って、なんで僕を脱がしてるんだよ」
そう言いながら必死に逃げようとする。
「変身するからですぅ」と再び同じ黒子が答える。
「変身って!?」
「暴れて面倒だから、やってくれ」と一番小さな黒子が言うと、「OK」と言う言葉と同時にピコッという音と共に後ろ頭に衝撃が走った。
「こら、かりん。一般人をチタンのピコハンで殴るな!」
「薬よりこっちの方が早くて良いじゃない」
「死んだらどうするんだよ」
「大丈夫手加減し……」
どうやら、何かで殴られたらしい事を感じながら意識を失った。